ウマスギ 其の伍拾弐
愛知県西尾市『きっさ レイゲン』のエビフライ定食1100円
三河一帯の川で魚取りをした。取ったというと語弊がある。ようするに採取しては撮影して放流を繰り返してきたのだ。
今や川の魚は持ち帰っていいワケがないくらいに危機的な状況にある。ただ種は明確に撮影して位置的なことも調べておかなければいけないわけで、そんな専門家の尻尾にくっついていったのだ。
三河地方と尾張地方木曽三川周辺は淡水魚の宝庫である。この愛知県の平野部を流れる流れには、この土地にしかいない淡水魚も少なからず見られる。その多くの種が生存の危機にあるのだ。
三河、尾張地方には今でこそ陸地(平野)が広がっているが、たぶん戦国時代には湿地帯だったのではないだろうか?
湿地帯を陸地にするにはどうすればいいか? 土を入れても陸地にはならない。水路を掘ることで陸地が出来るのだ。さて水路が出来ると淡水魚が繁殖するのだ。
実は淡水魚の食文化はこのように湿地帯を陸地(田畑)にするために水路を作った場所に発達する。例えばこの愛知県平野部、有明海周辺などだ。
水路を作るというのは一種の土木事業なのだけど、「水路を築く=土木技術の向上」が築城技術の向上に繋がり、結局、織田信長や豊臣秀吉、徳川家康などが天下を取るほどの力をつけたのだという学者もいるほどだ。
さて、平野部の水路、川で葦をかき分けながら魚を捕まえるのは実に重労働、しかも葦などで傷だらけになる。過酷なのだ。当たり前だけど腹が減る。肉体労働をした人だけに感じられる素晴らしい空腹感といえばわかるだろうか。ガツンとウマスギが食べたくなる。
さて三河地区の海から遠い平野部で「飯食いどころ」を探すのは大変だろうと思う人は愛知県を知らなさすぎる。愛知県全域には「喫茶店」という「飯食いどころ」があるのだ。
愛知県の喫茶店はモーツアルトを聴きながらうまいコーヒーを飲むとか、沈思黙考にふけるとか、そんなものはまったくない。
例えば「食堂なんだけど喫茶店とか」、「うどん屋さんだけど喫茶店」とか喫茶店の仮面をかぶった「飯食いどころ」がそこの農道の脇にも、まるで車の通りそうにない辺鄙な場所にも散在する。
その一軒が地元の方達が連れて行ってくれた『きっさ レイゲン』だ。外見は山小屋風にも見えるし、どちらかというと喫茶店である。
それが中に入るとコーヒーを飲んでいる人などまったくいない。
カレーの匂い、揚げ物の匂い、麺類のカツオ節だしの匂いまでする。ウマスギの予感がして腹が鳴るのだ。
メニューのいちばん上に「エビフライ定食」1100円があったので、なにも考えないでそれにした。地元の方は「焼きうどん定食」800円、もうひとかたは焼きそば。
焼きうどん、焼きそばは西日本では「お好み焼き関連」のもので食堂にも喫茶店にも結びつかないが、これが三河スタイルなのか?
それよりも、「にかけうどん」をお願いしなかったのが最大のミスだ。ソウダ節(マルソウダという魚を使った節で、愛知県での消費量が多い)のだしのつゆを使ったかけうどんで三河地方だけにしかない。
「バカだなー」とは思うがもう遅い。それに「定食+うどん」を食べると初対面のお二方に大食いだと思われてしまう。
少しスマートなエビフライがバベルの塔のように屹立している。これにソースをたっぷりかけ回しかぶりつくと、エビの風味がしていい味である。
ただしこれがクルマエビ科のエビなのかというと自信がない。クダヒゲエビ科のアルゼンチンアカエビかもしれないけど、かなりイケる。ご飯もうまい。
「エビフライでご飯をサワワ、サワワと食らう。ウマスギだがね!」
給食の器のようなみそ汁は普通。漬物も小鉢も普通だけど、
「さすが愛知でエビフリャーはええわ」
名古屋など愛知県といえば「エビフライ」だが、これは三河湾と伊勢湾という浅い海域こそが
クルマエビ科のクルマエビ、クマエビ
などの一大産地だったからだ。今でも漁獲量は決して少なくないが、クルマエビ
のフライ1本で700円〜1200円くらいについてしまう。とすると3本でいくらか、とても庶民の手の届くものではない。
エビフライのエビはアルゼンチン産だろうがインドネシア産だろうが、うまけりゃいいのだ!
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