2018/05/25 12:04:33
  • 市場魚貝類図鑑メルマガ Vol.34

市場魚貝類図鑑メールマガジン Vol.34

市場魚貝類図鑑メールマガジンをお届けします。
画像が表示されない等、正常に表示されない場合はWEBブラウザでコチラにアクセスしてもご覧になれます
Vol.34  2018/5/25

市場魚貝類図鑑メールマガジンVol.34をお届けします。

今回の内容
ウマスギ55!
ウマスギ 其の伍拾弐
愛知県西尾市『きっさ レイゲン』のエビフライ定食1100円
ウマスギ 其の伍拾参 
鳥取県境港市『かいがん』の「かつどん」

ウマスギ55 

ウマスギ 其の伍拾弐
愛知県西尾市『きっさ レイゲン』のエビフライ定食1100円

 三河一帯の川で魚取りをした。取ったというと語弊がある。ようするに採取しては撮影して放流を繰り返してきたのだ。 今や川の魚は持ち帰っていいワケがないくらいに危機的な状況にある。ただ種は明確に撮影して位置的なことも調べておかなければいけないわけで、そんな専門家の尻尾にくっついていったのだ。
尾張地方木曽三川周辺の淡水魚  三河地方と尾張地方木曽三川周辺は淡水魚の宝庫である。この愛知県の平野部を流れる流れには、この土地にしかいない淡水魚も少なからず見られる。その多くの種が生存の危機にあるのだ。
 三河、尾張地方には今でこそ陸地(平野)が広がっているが、たぶん戦国時代には湿地帯だったのではないだろうか?
 湿地帯を陸地にするにはどうすればいいか? 土を入れても陸地にはならない。水路を掘ることで陸地が出来るのだ。さて水路が出来ると淡水魚が繁殖するのだ。 実は淡水魚の食文化はこのように湿地帯を陸地(田畑)にするために水路を作った場所に発達する。例えばこの愛知県平野部、有明海周辺などだ。
 水路を作るというのは一種の土木事業なのだけど、「水路を築く=土木技術の向上」が築城技術の向上に繋がり、結局、織田信長や豊臣秀吉、徳川家康などが天下を取るほどの力をつけたのだという学者もいるほどだ。
 さて、平野部の水路、川で葦をかき分けながら魚を捕まえるのは実に重労働、しかも葦などで傷だらけになる。過酷なのだ。当たり前だけど腹が減る。肉体労働をした人だけに感じられる素晴らしい空腹感といえばわかるだろうか。ガツンとウマスギが食べたくなる。
 さて三河地区の海から遠い平野部で「飯食いどころ」を探すのは大変だろうと思う人は愛知県を知らなさすぎる。愛知県全域には「喫茶店」という「飯食いどころ」があるのだ。
 愛知県の喫茶店はモーツアルトを聴きながらうまいコーヒーを飲むとか、沈思黙考にふけるとか、そんなものはまったくない。
 例えば「食堂なんだけど喫茶店とか」、「うどん屋さんだけど喫茶店」とか喫茶店の仮面をかぶった「飯食いどころ」がそこの農道の脇にも、まるで車の通りそうにない辺鄙な場所にも散在する。
 その一軒が地元の方達が連れて行ってくれた『きっさ レイゲン』だ。きっさレイゲンの外観外見は山小屋風にも見えるし、どちらかというと喫茶店である。 それが中に入るとコーヒーを飲んでいる人などまったくいない。
 カレーの匂い、揚げ物の匂い、麺類のカツオ節だしの匂いまでする。ウマスギの予感がして腹が鳴るのだ。
きっさレイゲンのフードメニュー  メニューのいちばん上に「エビフライ定食」1100円があったので、なにも考えないでそれにした。地元の方は「焼きうどん定食」800円、もうひとかたは焼きそば。 焼きうどん、焼きそばは西日本では「お好み焼き関連」のもので食堂にも喫茶店にも結びつかないが、これが三河スタイルなのか?
 それよりも、「にかけうどん」をお願いしなかったのが最大のミスだ。ソウダ節(マルソウダという魚を使った節で、愛知県での消費量が多い)のだしのつゆを使ったかけうどんで三河地方だけにしかない。
「バカだなー」とは思うがもう遅い。それに「定食+うどん」を食べると初対面のお二方に大食いだと思われてしまう。
きっさレイゲンのエビフライ定食  少しスマートなエビフライがバベルの塔のように屹立している。これにソースをたっぷりかけ回しかぶりつくと、エビの風味がしていい味である。 ただしこれがクルマエビ科のエビなのかというと自信がない。クダヒゲエビ科アルゼンチンアカエビかもしれないけど、かなりイケる。ご飯もうまい。
「エビフライでご飯をサワワ、サワワと食らう。ウマスギだがね!」  給食の器のようなみそ汁は普通。漬物も小鉢も普通だけど、
「さすが愛知でエビフリャーはええわ」  名古屋など愛知県といえば「エビフライ」だが、これは三河湾と伊勢湾という浅い海域こそが クルマエビ科クルマエビクマエビ などの一大産地だったからだ。今でも漁獲量は決して少なくないが、クルマエビ のフライ1本で700円〜1200円くらいについてしまう。とすると3本でいくらか、とても庶民の手の届くものではない。
 エビフライのエビはアルゼンチン産だろうがインドネシア産だろうが、うまけりゃいいのだ!

ウマスギ 其の伍拾参
鳥取県境港市『かいがん』の「かつどん」

境港の水揚げ 鳥取県境港にある水産物市場は巨大である。 産地市場と言えば素朴かつこぢんまりした場所と思われがちだが、境港は国内でも屈指の水揚げを誇っている。市場に入ってみるとわかるがいちばん端に立っていると、反対側が遠すぎて霞んで見えるほどだ。その上にベニズワイガニや巻き網などの大量漁獲物をさばく機械が埠頭に置かれているなど、広い工場のなかに紛れ込んでしまったような錯覚を覚える。 ここで島根県島根半島・隠岐諸島の、ついでに鳥取県の魚貝類を一通り見て回るのはとても楽しい。ただしこれが実に重労働なのだ。
 競りが終わって。水産事務所などで少し休み、外に出ると空腹感は頂点に達している。市場を見たメンバーで急ぎ足に向かうのが近場の『かいがん』『ピアス食堂』であった。 残念ながら『ピアス食堂』は閉店してしまったが、『かいがん』の方はパワーアップして頑張っているという。
境港「かいがん」の外観 今回は島根半島から境港大橋を渡り、境港の水産物市場にたどり着いた。ただし、強大な建物の前で腕時計を見たら8時を過ぎていた。 松江で飲みすぎてしまったためだ。旧知の水産関係者に挨拶だけして、なんと6年振りに『かいがん』で朝ご飯を食べた。
 なぜ『かいがん』なのか、というと海の間際にあるためだ。とても分かりやすい。店の前には境水道が、左手には島根半島にかかる境港大橋が見える。深呼吸すると海の香りがする。
 久しぶりに店に入ったら、昔と同じオバチャンがいて、おかずのケースを見ようとしたら。
「まだ早いんや。おかずは少ししかない」
「そら、さびしいな」
 仕方がないので、コロッケとカレイの煮つけ、みそ汁にご飯にして席に着いたとき、なんとなくもやもやしていた頭に晴れ間がさしたように、浮き上がって来たのが「かつどん」である。 オバチャンに手を上げて、「ご飯やめてかつどん!」。そう、店の「かつどん」はとてもユニークなのだ。
 この「かつどん」がこの店だけのオリジナルなのか、境港全域、もしくは鳥取県西部全域で食べられているものなのか?
 やって来たのを見て驚いた、
「かいがん」のかつどん&定食 「こーんなに(かつどん)大きかったっけ?」
 しかも「かつどんのカツ」にコロッケだと、
「揚げ揚げじゃないか。バッカラロウ……、オレ」。
 この店の「かつどん」は、東京のようにかつを煮込み卵でとじるのでも、岡山のようにドミグラスソースがかかっているわけでもない。 ご飯の上に食べやすい大きさに切ったカツを乗せてとろっと半熟に煮た卵がかけてあるのだ。
 煮ていないカツはサクッとしていて香ばしく、やや甘めの卵もおいしいし、ご飯もおいしい。全体的に少しソフトすぎる味で物足りなさを感じるが、一つの丼としての完成度は高いと思う。
「おばちゃんウマスギや!」  とは言うものの、これしきの量で腹一杯になっている自分がなさけなくなる。 6年前にはオバチャンに「お盆一つでは足りんわな」と呆れ返られるほど揚げ物も、ポテサラもトリカラもお刺身もとのっけて、ナポリタンももらって一気に食い切っていたのになー。
 食後のコーヒーを飲みながら、島根県の水産アドバイザー時代の頃のことに想いを馳せて、少しだけ悲哀のなかにヒタヒタっと首まで浸かってしまったのだ。
 座敷の客に海鮮丼や刺身定食(この2品が最近人気らしい)を運んで帰ってきたオバチャンに、
「昔、赤い貝食べましたよね。確か『あかべい』ってやつ」
「ああ、今日はない」
「昔、かつどんってこんなにたっぷりでしたっけね。もっと小さかった」
「それって特別に作ってあげたんと違う」
 時間帯も違うし、あのときは地元の方と大勢で行ったことを思い出した。

 地物の刺身が食べられなかったのは残念であるが、一回りふくらんだ腹を抱えて帰途についたのであった。


発行者:ぼうずコンニャク(株) メール Web Facebook(ぼうずコンニャク) Facebook(藤原昌高)
ご購読の解除は  登録・削除ページ